お断り: 本記事は 2026 年 10 月 13 日にゲートシティ大崎(東京都品川区)で開催された「Media Provenance Summit Tokyo 2026」に弊社がスポンサーとして参加した際のメモです。イベント全体の正式な情報は ABU の公式ページ および 日本語ページ(NHK 財団) をご参照ください。他社セッションの内容については、主催者や各登壇者の公式発表を一次情報としてください。

はじめに

先日お知らせした通り、アジア太平洋放送連合(ABU: Asia-Pacific Broadcasting Union)が主催する Media Provenance Summit Tokyo 2026 に、スポンサーとして参加してきました。ライトニングトークで 1 枠いただき、会場にはブースも出しています。

サミットの趣旨は「C2PA をはじめとするコンテンツ来歴技術を、放送・報道の現場でどう実装するか」。アジア太平洋地域の放送局に加えて、IPTC や C2PA の関係者、技術ベンダー、認証局の方々が一堂に会する、かなり実装寄りの国際イベントです。スポンサーとして名を連ねた各社は、C2PA の仕様策定や署名用証明書の発行、プラットフォームでの表示、放送向けの機材やサービスなど、それぞれ違う立場からコンテンツ来歴に関わっている顔ぶれでした。弊社も同じ並びでロゴを掲げさせてもらい、休憩時間やブースではスポンサー各社の方々ともざっくばらんに話ができました。C2PA 専業で小さく始めた会社としては、こうして同じ場に立てたこと自体が正直かなり感慨深いものがあります。

項目内容
名称Media Provenance Summit Tokyo 2026
日時2026年10月13日(火)
会場ゲートシティ大崎 ゲートシティホール&ルーム(東京都品川区)
主催ABU(Asia-Pacific Broadcasting Union)
協力IPTC
公式ハッシュタグ#MPS-Tokyo2026

会場の様子

会場はゲートシティ大崎のホール。余談ですが、同じゲートシティ大崎には C2PA の立ち上げメンバーであるアドビの日本法人が本社を構えています。来歴技術のサミットをその足元でやる、というのはなかなか趣のある場所選びです。現地開催のみでオンライン配信なし、という形式だったこともあって、席はほぼ埋まっていました。メディアに関わる幅広い業種の方が集まっていて、休憩時間には日本語と英語が入り混じった会話があちこちで立ち上がり、「来歴情報」がすでに現場の課題として語られているのを肌で感じます。

360 度カメラで撮影した会場全景。登壇者を囲むように客席が並んでいる

ブースに持ち込んでいた 360 度カメラで撮った 1 枚です。登壇中の様子を客席まで含めて 1 枚に収められるので、こういうイベントでは地味に便利です。この画像では歪んでしまっておりますが、実際はもっと大きく広い会場でした。

ライトニングトーク: C2PA を、本番に載せる

弊社の持ち時間は 6 分。スライドは英語、話す言葉は日本語で、会場側で日英のリアルタイム字幕が出る運用でした。

Media Provenance Summit Tokyo 2026 のバックボードの前でライトニングトークを行う弊社代表

つかみはディープフェイク

自己紹介スライドの顔写真を、生成 AI で作ったディープフェイクにすり替えておく、という小細工から入りました。次のスライドで本物の写真と並べ、ディープフェイク側には Invalid、本物側には Trusted の表示を付けています。

自己紹介スライド。左がディープフェイク(Invalid)、右が本物の写真(Authentic)

ここはただのボケなので深い意味はないのですが、1 点だけ留意しておきたいところがあります。今回は話を簡単にするためにディープフェイク側へ Invalid を付けましたが、そのコンテンツがフェイクかどうかの判断そのものは、C2PA はやりません。C2PA が判定するのは署名後に改ざんがあったかどうかで、主な目的は誰がどう作ったかという来歴を伝えること。中身が事実かどうかは別の話です。このあたりの詳細は、C2PA とはのページや、博士とケンタの会話で学ぶ C2PAをご覧ください。

テックサンクスがやっていること

テックサンクスの紹介スライド。C2PA Implementation Specialists として、開発・運用と技術ブログ・OSS 貢献の 2 本柱を説明

まず、テックサンクスは C2PA 専門の開発支援の会社です、というところから紹介しました。C2PA の仕様と参照実装(c2pa-rs)はオープンに公開されていて、誰でも使えます。署名者の身元を保証する認証局(CA)もあります。また、放送局や事業者の現場には、コンテンツを扱う既存の業務システムがあります。この 3 つをうまく繋いで安定して動くシステムに仕立てるところに技術者が圧倒的に足りていない。弊社はそのギャップを埋める会社です、という立ち位置を説明しました。

あわせて、この技術ブログのことも紹介しました。登壇後にブースへ来てくださった方の何人かから「普段から読んでいます」「C2PA を日本語で発信している場所があって助かっている」という声をいただきまして、これは正直うれしかったです。仕様を追いかけて記事にする作業は地味なので、こうやって読み手の顔が見えると、やってきたことの価値を改めて感じます。

Musubi: 本番運用に必要な部品をまとめた実装パッケージ

後半は、弊社が開発している C2PA 実装パッケージ「Musubi」の紹介です。名前は C2PA の中核概念である Binding(結び)の日本語から取っています。

Musubi の紹介スライド。スピード・コスト・仕様改定への追従の 3 点を説明

Musubi は、署名・検証の API サーバー、大量ファイルをバックグラウンドで処理する Worker、仕様改定を吸収するコアエンジン、そして各種クラウドの KMS / HSM と繋がる鍵・証明書管理の 4 つの部品で構成されています。お客様のクラウドやオンプレミス環境にそのまま置いて、CMS やストレージから繋ぐだけで署名済みメディアが出てくる、という構成です。

C2PA の仕様改定やライブラリ更新はかなり速いペースで進んでいるので、自前で追従し続けるのは実際つらい。鍵管理や失効確認といった共通部分をゼロから自作せず、自社のコア業務に集中してもらうためのパッケージ、という位置づけで話しました。

ひとつ補足しておくと、Musubi はあくまで実装方法の選択肢のひとつです。弊社に相談したら Musubi を入れないといけない、ということはまったくなく、お客様の要件や既存システムに合わせて、Musubi を使わずにゼロベースでフルカスタムのシステムを開発するケースももちろんお受けしています。短期間で実装したい場合の近道として用意している一つの手法、くらいに捉えていただければと思います。

ブースと Musubi の実動デモ

会場内のスポンサーブースでは、Musubi の署名パイプラインのデモアプリを動かしていました。あくまでデモ用なので画面の UI は簡素なものですが、裏側は Musubi の各コンポーネントがそのまま動いています。

Musubi 署名パイプラインのデモアプリ画面。入力ファイルを選び、AWS KMS の鍵で署名して出力に並ぶ

画面の左が入力、中央が Musubi の各部品、右が署名済みの出力です。デモでは、中央に並ぶ各コンポーネントがそれぞれ何を担っているかを順に説明しました。

コンポーネントデモで実演したこと
Musubi Key鍵の置き場所を AWS KMS、Google Cloud KMS、Azure Key Vault、ローカル鍵ファイルから切り替え。どのパブリッククラウドでも、オンプレミスでも、そのまま導入できる
Musubi ServerAPI サーバー経由で画像を投げると、署名済みのファイルがそのまま返ってくる。CMS や業務アプリから同期的に呼び出す用途
Musubi Workerストレージに置かれたファイルを非同期で拾って順に署名していく。アーカイブや日々の大量素材など、数が多い分野向け
Musubi Core署名・検証の本体。c2pa-rs への依存をここに集約していて、C2PA の仕様変更やライブラリ更新への追従を Core で吸収する

画像だけでなく動画ファイルも同じパイプラインで署名できるところまで実演しました。

弊社ブース。「テックサンクスは C2PA 専門の実装支援会社です」のポスターとデモ用ノート PC

ブースには幅広い層の方が立ち寄ってくださいました。会話の中で多かったのは、だいたいこのあたりの話です。

  • 自社のワークフローのどこで署名すべきか。
  • 鍵をどう管理するか。
  • 途中から来歴情報を付与する価値はあるか。
  • 動画やライブストリーミングは対応しているか。
  • 仕様改定への追従をどう対応するか。
  • SoftBinding の使い所。
  • Conformance Program について。

どれも「C2PA とは何か」の段階を過ぎて、「どう実装していくか」の段階の質問で、サミット全体のテーマ設定そのものでした。 また、みなさんが気にしている観点やリアルな課題について会話する中で、今後の技術ブログのネタになりそうな話もたくさんありました。

おわりに

アジア太平洋の放送局が「来歴情報を実装する」という前提で一堂に集まる場に、技術提供者として立てたのは大きな収穫でした。5 月の NHK 技研公開で感じた「放送インフラの基礎部品になりつつある」という感触が、今回は国をまたいだ共通認識として確認できた形です。みなさんのC2PAに対する熱意と一体感を肌で感じることができた良い機会になりました。

主催の ABU、協力の IPTC、運営にあたられた NHK 財団の皆さま、そしてブースや会場で声をかけてくださった皆さまに、改めてお礼申し上げます。

写真を撮れていないのでここではご紹介できませんでしたが、他のスポンサー各社のブースもとても面白く、大変参考になりました。

会場で「ブログ読んでいます」と声をかけていただいたことは、何よりの励みになりました。C2PA の仕様改定や実装の勘所は、今後も日本語で読める形にしてこのブログに積み上げていきます。

弊社は引き続き C2PA 実装を、設計から本番運用まで色々な形で技術支援していきます。無料相談フォームからお気軽にご連絡ください。

参考リンク